人形劇団むすび座 インタビュー
子どもと舞台芸術大博覧会2023 in NIIGATAで行われた、観客投票で選ばれるMorry-1グランプリ。子どもたちの熱い支持を受けてグランプリに輝いた「チト〜みどりのゆびをもつ少年〜」を上演した人形劇団むすび座のスペシャルインタビューをお届けします。
参加者
むすび座の制作の吉田明子さん
チトを演じた鈴木裕子さん
チトの父親を演じた太田博巳さん
―はじめに、むすび座の名前の由来を教えていただけますか?
吉田さん「1967年名古屋で初めてのプロの人形劇団として創立。創立者の2人が、子どもと子どもを結びたい、お母さんと子どもを結びたい、人と人とを結びたい、という思いを込めました。
高度成長期で子ども達が遊ぶ時間や場所がどんどんなくなってきて、カラーテレビばかり見ている、といった状況に心を痛めていた保育士さんや親御さんなどと一緒に人形劇を届けたい、ということで始まりました。保育園や幼稚園、それから小学校向けの作品も作るようになり、子ども劇場、おやこ劇場が全国にできてきて、そこに呼ばれて日本全国で上演するようになりました。年間で1000回を超える公演を行なっています。劇団の中で演目に合わせて班に分かれて、1年間に約16万人の観客にご覧いただいています。」
「チト〜みどりのゆびをもつ少年〜」は創立50周年(2017年)を記念した作品。モーリス・ドリュオン『みどりのゆび』が原作。好評を受け、2021年に再演、今回が再再演となる。
―この作品への思い
鈴木さん「再再演からの参加になります。再演の時に劇団の外から観ていました。チトもパパもママもカミナリさんもみんなそれぞれが愛にあふれていて、なんてあたたかくてやさしいお話なんだ、と思いました。また再演したらぜひ関わりたいと思っていました。まさかチト役とは思ってなかったですけど」
太田さん「正直にいって難しい役ではありますよね。武器商人の側ですから。でも自分の家族に対しては愛にあふれている。ただ私腹を肥やして、ということではなく、街を豊かにしたい、という彼なりの信念があってやっていることなので、一口で悪人だと言い切れない。非常に複雑な人間である、ということでやりがいのある役でもある。あとは、花でわが街を立て直そう、なんていう突飛な話ではありますよね。現実だったらあり得ないですが、そこは物語の世界ですし、お客さんに世界観に浸ってもらって、何か響いたらいい。普段の生活の中でも、リアルな自然や草花に触れると感じるものがある、そういう匂いを舞台の世界からどれだけお届けできたか分かりませんが、ウクライナとロシアの戦争を伝えるニュースでも度々「花」というキーワードが出てくる。自然にはそういう力があると感じさせる。ある意味タイムリーな上演になった。そういった意味でもお届けしたい作品です。」
吉田さん「脚本の篠原久美子さんが、原作の『みどりのゆび』を脚本にする際に、注意することの一つに『大人を悪者にしない』ということがあったと聞いています。チトのお父さんを私腹を肥やす悪者として描いてしまえば、対立がわかりやすい物語になったと思います。初めはお父さんも家庭教師のカミナリさんもチトに厳しくするのですが、最後にはチトがいるだけで100点だった、と言うように、ファンタジーだけどそれだけじゃない、現実のくるしさや苦さ、無力感も描いていて、それよりももっと深いことが込められている。それを演出家や役者がどう具現化するか、と努力した結果が込められていて、私も大好きな作品です。
今回、再再演するにあたり初演と再演から変わったシーンがあります。お父さんが武器工場を花を育てる工場にしようと決意するシーンで、役者が人形から手を離して、生身の役者が現れるんです。そこで本心が表れる、今まで戦争は良くないと思いながらも武器を製造しつづけ、心に蓋をしていた。それが取れた瞬間でした。客席で見ていた子どもから「本物が現れた!」と声が上がりました。太田さんのアイデアでしたよね?」
太田さん「今回、どういった演出にしましょう、といった話し合いで自分の中でも少し消化不良の部分があったので、人形を自分の手から離す、と言うことで本心が表れる、と言うのはどうかな、と思っていました。すると演出の方から先に、そう言う表現もあるかも、と言われたので、自分もまさに同じことを思っていた、と伝えて一つの表現としてチャレンジしました。」
吉田さん「オープニングで虫たちが客席から表れて子ども達とやり取りをする、そういった演出も今回から。チームのみんなが毎回もっと良くするために常に考えています。」
人形は、洋服やメイクを直したりはしたが、初演時から大事に使われている。
人形の手のひらの内側には、人形を操作するために役者が手を引っ掛ける「ツマカワ」と言うものがある。通常は丈夫な皮を使うのだが、今回のチトは指が大事な役割を果たすので、少しでも違和感が出ないよう、透明のベルトのようなものを使用している。
人形一体の制作期間はおよそ一週間。みんなで分業して作業を進行できるので、その辺りも大劇団の強み。作品の仕込みは通常3ヶ月ほど。専業の美術スタッフはおらず、デザイナーのデザインに沿って、役者も人形を作ったり、衣装を作ったりと団員みんなで制作している。
―むすび座の一員になるまで
鈴木さん「高校で演劇部、大学も大阪芸術大学で4年間しっかりお芝居を学んで就職しました。むすび座に見学に来た時、人形で表現しているのですが、それが本当に生きているようにすごくイキイキしていて、役者の声もスッと入ってきて、こんな表現方法もあるんだ、とすごくびっくりしました。生の人形劇を初めて観て、今までやったことのないこと、新しいことに挑戦したいと思って入団しました。」
太田さん「人前でパフォーマンスを生身でやることに恥ずかしい部分があったけど、潜在的に表現したい気持ちがあって、大学のサークルで人形劇を選びました。むすび座に入ってプロの道を志したのは、子どもたちの前でやった時に喜んでくれた経験、それから人形を動かす、魂を入れる、ということ対しても面白さを感じたから。さらに、たまたま自分が愛知県出身だったということ、大学の先輩が先に入団していた、ということでむすび座に入りました。」
―観客の皆さんへメッセージ
吉田さん「公演をやりながら、今子どもたちはどんな状況に置かれているんだろう、何を考えているんだろう、と作品をやりながらフィードバックをもらってる。だからこそ、ステレオタイプな描き方ではない等身大の子どもの姿が描けているんじゃないかな、と思っています。観てくれている子ども達もそのまんまの気持ちで、とにかく楽しんで、あー面白かった、とかたくさん笑って元気になった、とかそんなふうに人形劇を観て元気になってくれたら、と思っています」
鈴木さん「チトに出てくる、パパやカミナリさんは「強くあれ」と言うし、ヒゲさんや病院の先生は「弱くてもいいから、やさしく、他者と共に生きるんだよ」と教えていて、子どもにとってはどちらも重要なことだと思うのですが、私は弱くてもいいし、逃げてもいいし、いろんな人がいていいんだよ、ということを伝えたい。むすび座の人形劇を見て、明日もがんばるぞ、とちょっとでも思ってもらえるといいな、と思います。」
太田さん「元々のむすび座の理念(子どもと子どもを結びます。人と人とを結びます)を実際に形にするために僕らがやっている。この世界に入る入り口はみんなバラバラで、それぞれの思うやり方で、力を合わせて人形劇をお届けしています。
今回のパパの表現にしても賛否あると思うし、受け取り方は様々。実際に公演後に「私なりの解釈でいいんですよね?」と声をかけてくれる大人の方もいましたが、それでいいと思います。何かプラスになって、明日を生きるエネルギーに少しでもなってくれたらいいと思います」
「チト〜みどりのゆびをもつ少年〜」あらすじ
ばら色の頬に金色の巻き毛のチトは、裕福な両親に愛されて育った8才の少年です。
そんなチトには不思議な力がありました。親指をあてると、どんな所にも花を咲かせ、緑を育てることができるのです。刑務所、病院、貧民街……チトは街を花や緑でいっぱいにし人々を驚かせます。
ある日、戦争のニュースが飛び込んできて、武器工場の経営者であるチトのパパは大忙し。そして、チトは… 人形劇団むすび座創立50周年を記念した作品です。(むすび座HPから引用)
むすび座の皆さま、ありがとうございました。2024の大博覧会では「とりかえっこちびぞう/めっきらもっきらどおんどん」が上演されます。お楽しみに!